アメリカにいた方や海外の料理がお好きな方ならきっと、「テクス・メクス」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
テクス・メクスって、メキシコ料理のことじゃないの?
そう思っている人が多いと思うけど、実は全然違うものなんだ。
「テクス・メクス」といえば「メキシコ料理」と認識している人も多いですが、結論から言うとメキシコ料理とテクス・メクス料理は全くの別物です。
「テクス・メクス」は「メキシコ料理」をモデルにして、アメリカ人好みに変化したいわゆる「融合料理」であり、同一視するべきではないという意見が一般的。
近年は「文化の盗用」という問題も意識されるようになり、オリジナルとの違いをきちんと理解し、区別することの大切さが意識されるようになってきました。
こんな疑問を抱えていませんか?
- テクス・メクスとは何?
- メキシコ料理との違いは?
- 代表的な料理は?
筆者がメキシコに住んでいた経験と、メキシコ人夫の意見を参考にしながら解説していきたいと思います。
テクス・メクスとは
「テクス・メクス(Tex-Mex)」とは、「テキサス(Texas)」と「メキシコ(Mexico)」を組み合わせて作られた造語。
スペイン王立アカデミーによると、
「テクス・メクスとはアメリカのテキサス州に住むメキシコ人およびアメリカ人の習慣に属する全ての事柄につけられた名称」で、特に食事と音楽に関して使用される単語とされています。
ちなみに「テクス・メクス」は、かつてテキサスとメキシコを繋いでいた鉄道の名前にもなっています。
今回この記事では、「テクス・メクス料理」に焦点を当てて紹介していきたいと思いますが、ウィキペディアは、「テクスメクス」を下記のように定義しています。
「テクス・メクスとはアメリカ化された、低品質のメキシコ料理もどきを指す言葉である」
ウィキペディア
つまり「テクスメクス料理」とは、メキシコ料理をモデルにして作られた、アメリカテキサス州独自の融合料理ってことだね。
その通り!メキシコ料理というより、アメリカ料理なんだ。
テクス・メクス料理の起源
テクス・メクス料理の起源は16世紀、アメリカ大陸の大部分がスペイン人に支配されていた頃まで遡ります。
この時代、先住民族が住んでいたアメリカ大陸にキリスト教を布教するため、テキサス州にも多くのスペイン人司教が訪れ、そのまま定住していきました。
その結果、スペイン料理と地元の先住民料理が融合し、「テクス・メクス料理の原型」なるものが誕生。
その後19世紀に入ると、先ほど紹介した「テクス・メクス鉄道」の影響で、テキサス州にメキシコからの移民が激増します。
メキシコで使用されている食材を、アメリカで手に入るもので代用したり、食材をメキシコから輸入したりして、よりメキシコの味に近い融合料理へと変化を遂げました。
故郷の料理が恋しくなることってあるよね!
1960年代になってようやく「テクス・メクス(Tex-Mex)」という言葉が誕生したことにより、正式に「テクス・メクス料理」が誕生します。
アメリカの大手チェーン店「タコベル」などを筆頭に、アメリカ国内では人気が沸騰。
代表的なテクス・メクス料理
ハードシェルタコス
アメリカのテクス・メクス料理では、トルティーヤをU字に折り曲げて油で揚げた「ハードシェルタコス」が圧倒的な人気を誇っています。
1940年台にアメリカで開発され、後にハードシェルタコス専用のスタンドなども登場し、テクス・メクス料理の定番となりました。
タコスと言えばハードシェルのイメージだったけど、アメリカで生まれたものだったんだ!
ナチョス
ナチョスは、3角形にカットして揚げた味付きのトルティーヤチップスに、黄色いアメリカのチーズを溶かし、ハラペーニョのピクルスなどをトッピングした料理。
スナック感覚で食べられる点がアメリカ人に人気で、映画を見ながら食べる人が多いですよね。
ナチョスには、ユニークな起源があるんだよ。
1943年メキシコのコアウイラ州のレストランに、アメリカの航空兵の夫人達がランチをしにやってきます。
しかしその日は調理師が不在だったため、ウェイターが店にあるものを出そうと模索。
そこでトルティーヤにチェダーチーズをかけて焼いたものを出してみると、思いのほか大好評。
のちに、正式メニューに加えられることとなりました。
この料理を思いついたウェイターのニックネームが「ナチョ」だったため、「ナチョス」という名前が付けられ、アメリカで大人気を博します。
ナチョスについてもっと知りたい方はこちら。
ブリトー
ブリトーは、小麦粉原料のフラワートルティーヤに、野菜や肉などをたっぷり入れて、筒状に巻いた料理。
肉の他にも米や豆を始め、レタスやトマトなどの野菜やチーズなどを入れるのが一般的で、オイスターソースのような酸っぱいけど甘しょっぱい味付けが特徴です。
一個で満腹感を得られるブリトーは、弁当やランチの定番になっています。
ブリトーはメキシコの北方に位置する、チワワ州シウダー・フアレスというところで、革命時代兵士の弁当として生まれた料理ですが、実はブリトーはメキシコではあまり定番とされていません。
ブリトーもメキシコでは定番じゃないの?!
実はメキシコではほとんど食べないんだよ。
アメリカにいたメキシコ系移民が北部にたくさん帰還してきたことにより、世界中でその名が知られるようになったと言われています。
「メキシコといえばブリトー」というイメージは、こういった背景から来ているのですね。
チリコンカン
チリコンカンはもともと、スペイン語で「肉入り唐辛子」という意味の「チレ・コン・カルネ(Chile con Carne)」がアメリカ英語読みされ、「チリコンカーニー」のような発音をされたのが語源と言われています。
日本ではそれが日本語読みしやすいよう、「チリコンカン」と謎の名前がつけられました。
発音全然ちがくない…?!
豆や野菜がたっぷり入ったチリコンカンは、健康志向のアメリカ人からも人気ですよ。
メキシコ料理との違い
トルティーヤの原料
この場合の「トルティーヤ」とは、タコスなどに使われる皮のことを指します。
メキシコでは太古の昔からとうもろこしが原料のトルティーヤが食べられており、現在でもとうもろこしのトルティーヤが好まれる傾向にあります。
アメリカでは比較的にとうもろこしの粉が手に入りにくいため、小麦粉原料のフラワートルティーヤや、小麦粉ととうもろこしを混ぜたものが好まれます。
むしろ小麦粉の味に馴染みのあるアメリカ人にとっては、小麦粉のフラワートルティーヤの方が食べやすく、美味しいと感じるんだとか。
トルティーヤについてあまり知らないという方はこちら。
お肉の使い方
メキシコでは、カットされた肉や、薄いステーキ状の肉がそのまま使用されることが多いです。
一方アメリカのテクス・メクス料理では、加工されたひき肉が好まれる傾向にあります。
また肉の量も、たっぷりと使われることが多いんだとか。
日本でも、ひき肉を使ったタコスの方が主流だよね。
日本はアメリカの影響を強く受けてるってことだね。
しかしメキシコでは、一般的に「タコス」というと、鉄板で焼いた手のひらサイズのトルティーヤに少量の肉などの具材を入れ、サルサなどをトッピングして食べるものが一般的です。
ハンバーガーの国アメリカでは、タコスにもひき肉を使う。メキシコではタコスにひき肉はあまり使わない。
スイートコーン
黄色で甘いスイートコーンは、テクス・メクス料理で頻繁に使われます。
日本でも、タコスやタコライスに欠かせないのがスイートコーン。
実は伝統的なメキシコ料理では、スイートコーンはほとんど使われません。
メキシコではスイートコーンをトッピングしないんだ!
スイートコーンはそもそもあまり食べないけど、白いとうもろこしはよく食べるよ。
メキシコでは、白いとうもろこしが一般的に使用されます。
白いとうもろこしの他にも、先住民時代から栽培されてきた青色、赤色、黄色など、バリエーションが豊富なとうもろこしが栽培されてきました。
現在は白いトウモロコシの需要が圧倒的に高いため、他の色のとうもろこしを栽培する農家が減ってきています。
調味料
アメリカのテクス・メクス料理では、主なスパイスとしてクミンが使用されます。
これはテクスメクス料理が、北アフリカ出身のベルベル人が多い、カナリア諸島から来た移民の文化の影響を受けているからだと考えられています。
テキサスには昔からいろんな国の移民が来ていたんだね。
他にも、ケチャップやマヨネーズ、バーベキューソースなどの加工された調味料が好まれる傾向にあります。
これらの調味料を使うことで、ハンバーガー感が一気に増しますよね。
一方メキシコ料理では、伝統的なスパイスやハーブが使用されます。
オレガノ、エパソテ、シラントロ(パクチー)など、昔から先住民料理に使用されてきたハーブや薬草を始め、にんにくや塩こしょうなどの自然な味付けが好まれます。
チーズの種類
アメリカのテクス・メクス料理では、ハンバーガーなどに使われる、加工された黄色いチェダーチーズが使用されます。
これらのチーズは一般的に質が低く、アメリカでは安価に手に入りやすい食材です。
一方メキシコ料理では、白色のフレッシュチーズが使用されることが多いです。
メキシコでは農家直送のチーズが安く手に入るため、道端や売店でも簡単に購入することができます。
一般的にタコスに使用されるものは「オアハカチーズ」と呼ばれ、白色でビヨーンと伸びるのが特徴。
日本の「さけるチーズ」のモデルになったとかなってないとか。
きちんと発酵して作られたナチュラルチーズは、加工されたチーズにはない味わいと自然さがあります。
写真のようにグルグル巻きにして売られています。
豆の形状
テクス・メクス料理では、インゲン豆を丸ごと使った料理が特徴的ですよね。
缶などで売られており、アメリカでは手軽に使える食材かと思います。
メキシコでもインゲン豆はよく使われますが、その調理法が大きく異なります。
メキシコで豆は「フリホレス」と呼ばれる人気食材。
インゲン豆を塩、にんにく、玉ねぎ、そしてエパソテという野草でよく煮詰め、煮汁ごと食べます。
また、これをペースト状にしたものをタコスに入れて使ったりします。
メキシコ北部の融合料理
最後に紹介したいのが、メキシコ北部で見られる興味深い融合料理。
メキシコ北部、つまりアメリカとの国境に近い地域では、「メキシコ料理とテクス・メクス料理の融合」なるものが存在します。
この地域では国境を跨いでの人の行き交いが非常に多く、必然的に文化や料理などもミックスされてきた歴史があります。
その結果メキシコ北部地域では、テクス・メクス料理でよく使用される小麦粉原料のフラワートルティーヤが多く食べられていたりと、必然的に共通点が多くなっています。
テクス・メクス料理を試してみよう
テクス・メクス料理は、日本全国のレストランで食べられます。
普段お使いの予約サイトで、お近くのレストランを検索してみてくださいね。
お近くのテクス・メクス料理は、ホットペッパーグルメで予約。
ホットペッパーで探すTポイントユーザーの方は食べログで予約。
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Paypayグルメで探すまとめ
日本で知られている「メキシコ料理」のほとんどが「テクス・メクス料理」だったんだね。
メキシコ料理とテクス・メクス料理の違いを振り返ってみると、日本で認識されている「メキシコ料理」のほとんどが「テクス・メクス料理」だということに気づくかと思います。
メキシコ料理には海外で手に入りにくい材料が比較的多いため、それぞれの土地で手に入る食材を使って調理されることで、少しずつ形が変化していきました。
メキシコ料理を変化させたテクス・メクス料理は、ある意味「ニセモノ」であるわけですが、せっかくならその土地に合うように変化した「融合料理」として楽しむことが大切だと思います。
テクス・メクス料理の原型メキシコ料理について知りたい方はこちら。
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